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執筆者の写真桜井 貴斗

新規事業の判断基準について考える-正確な判断を下すための心理学の理論-

新規事業の判断基準について考える

新規事業には、重要な判断を下す機会が数多くあります。そして、これらの判断を成功させるには、判断基準の軸を築き、基準に沿った正確な判断を積み重ねていくことが重要です。

そこで本記事では、判断基準の設定と正確性の向上を心理学の理論で紐解きます。


「認知バイアス」「ノイズ」「消費者の購買行動」に分けて最新の理論をピックアップし、より良い判断による新規事業の成功の機会を探っていきます。


こちらのシリーズ記事もぜひお読みください。


新規事業の営業戦略について考える-理論から勝ち筋を見つけるアプローチ-

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目次



新規事業の判断基準を心理学的に考える重要性


新規事業では、重要な判断を下す局面があります。


特に、少人数で多様な業務を担当し、経営戦略や事業展開に直結する大きな責任を負いながら、スピーディーな決断を求められることも多くあります。


その中では、必ずしも専門知識や経験のない分野で、一人や少人数が大きなプレッシャーを背負った状態で判断を下さざるを得ない状況があり、極めて困難な状況で冷静に判断を下すことを求められていると言えます。


このような厳しい状況で、判断の正確性と確実性を向上させるためには、事業の内容に加え、判断に関わる心理学的な要因について知ることは有効な手段の一つです。


また、購買につながる顧客の行動を心理学的に理解することで、より効果的な顧客へのアプローチを考えるヒントになります。



判断基準の軸を誤らせる認知バイアス


1.認知バイアスとは何か


「認知バイアス」とは、人間の思考や判断における無意識の偏りや歪みのことを指します。これにより、正確な情報処理や意思決定が妨げられがちです。


認知バイアスは日常のあらゆる場面で影響を及ぼし、事業の意思決定においても無視できない重要な要素です。認知バイアスを理解し、その影響を最小限に抑えることが、より客観的で正確な判断を下すための鍵となります。


新規事業を成功に導く判断を下すには、以下のような対策や仕組み作りが非常に有効とされています。


認知バイアスによる影響を防ぐには

これらの対策は、しばしばメンバーの反感を買ったり耳の痛い指摘を受けることもありますが、次項で紹介する認知バイアスによるリスクを知れば、実行する価値はあると感じられるでしょう。



2.内外の環境を見誤らせるバイアス


まず、以下の事実・回答・場合をご覧ください。


内外の環境を見誤らせるバイアス

①本事業は拡大すべきと考えている場合

「A.全体として前年からの伸びがある。売上優秀店舗をモデルに、事業拡大への投資とテコ入れを進めるべき。」とまとめたくなりませんか?


しかし、これでは「実績3:半分以上の支店では前年同一からやや前年割れとなっている。」事実を根拠なく無視していると言えます。


従って、この評価は過度に楽観的となり、この評価を反映した事業計画では拡大した事業が不採算となるリスクを抱えています。


②本事業は縮小すべきと考えている場合

「B. 多くの支店で事業はすでに下り基調となっている。黒字のうちに縮小撤退を考えるべき。」とまとめたくなりませんか?


これでは逆に、「実績1:前支店の売上平均はわずかに前年を上回っている。」「実績2:一部の支店では、前年比120%程度の売上を上げている。」事実を無視していると言えます。

従って、この評価は過度に悲観的となり、この評価を反映した事業計画では機会損失のリスクを抱えています。


このように、自身の考えに都合の良い事実だけを拾い集める行為は「チェリーピッキング」と呼ばれる危険な論法として知られています。


また「チェリーピッキング」は避けるべきと分かっている人でも、ついこのような主張に至ってしまうことがあります。これは、「確証バイアス」と呼ばれる認知バイアスの一種によって、自分にとって都合の良い事実に無意識に注目してしまう傾向によって引き起こされる現象です。


この傾向は、事実を都合よく楽観的 / 悲観的に評価することにつながり、事業の実績や取り組みの評価を誤らせます。



3.確率の見込み違いをさせるバイアス


以下の説明の人物の素性について、どちらがより当てはまる確率が高いと感じますか?


確率の見込み違いをさせるバイアス

直感的に「A.食品会社の開発担当者で、趣味でチェロを演奏する」を選びたくなりませんでしたか?


実際には、「B.食品会社の開発担当者」のほうが当てはまる確率が高くなります。


一般的に見ると、単に「食品会社の開発担当者」に当てはまる人物も、単に「趣味でチェロを演奏する」に当てはまる人物も、ある程度珍しい人物といえます。


従って、「食品会社の開発担当者」と「趣味でチェロを演奏する」の条件に同時に当てはまる人物②は、確率的にはさらに珍しく、当てはまりにくいことになるのです。


このように複数の事象が同時に起こる確率を過大評価してしまう現象は、「連言錯誤」として知られる認知バイアスの一種です。


今回の例では、「クラシック」「チェロ」という印象的なワードにより、趣味でチェロを演奏する人物としての代表性があると感じたと考えられます。


この傾向は、顧客層や商品またはサービスの設計において確率の見込みを誤らせ、結果として大きな機会損失を引き起こすリスクの要因となります。



4.結果の評価を誤らせるバイアス


ある新製品が売れ行き不振となった原因について、どのように分析しますか?


結果の評価を誤らせるバイアス

①自社製品の場合

「A.製品は良かったが、市況や流行がたまたま噛み合わなかった。」を選びたくなりませんか?

しかし、これでは原因を過度に外的要因に求め、内的要因を軽視した分析となります。

従って、この前提に立った分析では、自社製品に改善に必要なフィードバックを行えないリスクを抱えています。


②他社製品の場合

「B.開発が行き当たりばったりで、売れる見込みの低い商品だった。」を選びたくなりませんか?

これでは逆に、原因を過度に内部要因に求め、外部要因を軽視した分析となります。

従って、この前提に立った分析では、他社製品の脅威を正確に分析できないリスクを抱えています。


このように、自身や自分の所属する集団(内集団)やメンバーの、失敗は運や環境、成功は努力や能力にその原因を帰属しがちになります。


一方で、他人や自分の所属していない集団(外集団)やそのメンバーの、失敗は努力や能力、成功は運や環境にその原因を帰属しがちになります。

このような傾向は「帰属の誤り」として知られる認知バイアスの一種です。


また、自身や自身の属する集団を無意識に優遇して評価してしまう傾向は、「内集団バイアス」として知られています。


これらの傾向は、自社製品の改善すべき問題点を見失わせ、競合他社の製品の脅威度を不当に低く評価することにつながります。


参考図書:

『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』情報文化研究所



基準に基づいた判断を歪める「ノイズ」


1.「ノイズ」とは何か?


判断における「ノイズ」とは、一見ランダムな要因による判断のバラつきを指します。

一定の判断を下しているつもりでも、担当者や無関係な種々の条件の違いによって、実際は大きく異なる判断を下していることが知られています。


ノイズは認知バイアスに比べると影響が目立ちにくいため軽視されがちですが、1度の判断の誤りが事業存続に関わることもある新規事業において、感覚や周囲の状況に流されずに、判断基準に基づいて正確な判断を下すことは、判断基準の軸を作ることと同様に重要と言えます。


こうした正確な判断を下すには、認知バイアスへの対策と同様に、対策や仕組み作りが非常に有効とされています。


ノイズによる影響を防ぐには

ノイズへの対処は、認知バイアスへの対策に比べて、一層心理的なハードルが高い面があります。しかし、こうした仕組みを構築できれば、新規事業の立ち上げ段階だけでなく、拡大 / 継続の段階でも会社の意思決定を支える大きな財産となるでしょう。



2.気持ちの良い判断にはノイズの罠がある


どちらの判断が、より自身の満足感が高いと感じますか?


気持ちの良い判断にはノイズの罠がある1

「A. 自身の経験に基づき、直感から直ちに方針を決定した。」の判断を下すとき、あなたは自身の豊富な経験と決断力に対して満足感を感じませんか?


特に情報の不足によって予測が難しいと思われる事項について、直感的な判断を下した際に、根拠もなく「良い判断をした」という満足感を感じてしまう傾向が知られています。こうした満足感は、ノイズの要因となる「内なるシグナル」と呼ばれる現象です。



どちらの判断が、より自身の満足感が高いと感じますか?


気持ちの良い判断にはノイズの罠がある2

「A. データがエラーだった可能性を指摘し、データの取得方法を見直すよう指示した。」の判断を下したくなりませんか?


自身の想定していた結論や考えていた仮説に沿うような状況に対し、それが事実とは異なっていても、人は満足感を感じてしまう傾向があることが知られています。こうした満足感を求める現象は、ノイズの要因となる「過剰な一貫性」と呼ばれます。



新規事業において意思決定権を持つキーパーソンが、こうした「内なるシグナル」や「過剰な一貫性」に惑わされて判断を下した場合、独善的な判断によって事業の方向性に影響を与えたり、メンバーの士気を下げてしまうリスクがあります。



3.集団によってノイズは増幅される


集団によってノイズは増幅される

複数の人が順番に前の人の選択情報を参照しながら判断する場合に、自分自身の持つ情報に基づかず、連鎖的に多数派の選択肢を選んでしまう現象が見られます。

このような傾向はノイズの要因となる「情報カスケード」と呼ばれます。


また、集団の中で互いにやりとりするうちに、集団の意見は個々人のもとの考えよりも極端な方向に振れやすい傾向があります。

こうした傾向はノイズの要因となる「集団極性化」と呼ばれます。


こうした現象や傾向が作用することで、個人の判断に含まれるノイズが集団での議論の中で増幅され、意見の多様性が失われてしまう場合があります。

新規事業の会議においても、多角的で建設的な議論を行っているつもりで、いつのまにか一面的で偏った結論を導いてしまうリスクとなり得ます。



参考図書:

『NOISE : 組織はなぜ判断を誤るのか?』ダニエル・カーネマン他



顧客の購買行動につながる判断基準


1.顧客の購買行動を一連の流れで考える


顧客に製品やサービスの購入を促す際には、商品が購買される瞬間だけでなく、購買に至るまでの顧客の行動を考えることがヒントになります。


顧客の購買行動を一連の流れで考える

本項では、これらについて心理学の視点を交えて解説します。



より詳しい解説記事はこちら。

カテゴリーエントリーポイント(CEP)とはなにか?


2.顧客が価値を感じる瞬間を考える


代表的なマーケティングフレームワークの1つである「STP分析」では、細かく具体的に絞り込んだターゲットに対して、競合他社と差別化した製品やサービスによってどのような価値を与えるかを明確にすることを目的としています。


しかし、新規事業においてはターゲットを具体的に絞り込みきれなかったり、そもそもの顧客規模が少ないため絞り込みを行う事自体が適切でない可能性があります。


そこで新規事業のマーケティングにおいては、新たなフレームワークとして「ターゲット×オケージョン×プレファレンス」が提唱されています。これは、ターゲットを特定する際に、消費者の行動や状況に基づいてセグメントを行う方法です。

このフレームワークでは、顧客(ターゲット)がどんなとき(オケージョン)に、何に対して(プレファレンス)「価値を感じるか」を捉えることを目的としています。


このように、新規事業では「特定の顧客にどのような価値を与えるか」ではなく、「誰にどのような価値を感じてもらえるか」という視点で、価値作りを考えることが有効と言えます。



より詳しい解説記事はこちら。

いきなりSTP分析を使ってはいけない理由について。

消費者便益(Benefit)を決めるときに気をつけたいこと。


3.心理的なアプローチによる価値作りに注目する


近年、顧客自身に敢えて行動や選択をさせることによって、価値を感じてもらう商品やサービスの設計としてが提唱されています。これは、「体験価値」や「不便益」といった言葉が市民権を得つつあることからも、一般に受け入れられていると感じられます。


これらの価値作りは、見方によっては一種の認知バイアスの利用とも捉えることができます。つまり、物事に自由な選択を求める「心理的リアクタンス」や、自身の行動や選択を価値のあるものと感じる「確証バイアス」を満たす価値という見方です。

こうした認知バイアスを利用した価値作りは、いわば「本能的に感じる価値」に対するアプローチとも言えます。


このようなアプローチにより、至れり尽くせりの機能やサービスを一方的に与えられるよりも却って印象深く、満足感を人に共有したくなるような価値を感じさせることができるでしょう。



参考図書:

『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』芹澤 連

『コトラーのマーケティング4.0』フィリップ・コトラー

『確率思考の戦略論』森岡 毅、今西 聖貴



まとめ


本記事では、新規事業での判断のリスクとなる認知バイアスとノイズについて解説し、さらにこれらが顧客の購買行動に与える影響についても紹介しました。


事業戦略や価値創造においては、様々な理論やテクニックが提唱されていますが、その根底にある心理学的要素について考えることで、これらをより有効に事業に活用することができるでしょう。



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当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。これは、事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをするサービスです。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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【記事を書いた人】


プロフィール

株式会社HONE

代表取締役 桜井貴斗


札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。 クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。


※本記事は一部AIを活用して執筆しています。


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